ときがわ町で「しごとをつくる人」インタビュー第3弾 その③

今回お話を伺ったのは、ときがわ町西平地区にある養老牧場「ときがわホースケアガーデン」代表の鈴木詠介さん。

養老牧場とは、通常、引退した競走馬、乗馬用の馬を預かってお世話をする牧場という意味で使われます。

でもときがわホースケアガーデンでは、馬が過ごすのに快適な環境をつくりながらも、積極的に馬と人、馬と地域との関係を築いていこうと取り組んでいます。

鈴木詠介さんが考える、ときがわホースケアガーデンの過去、現在、未来の姿を、3回にわたってお届けします。

鈴木詠介さんの1回目のインタビュー記事はこちら
2回目のインタビュー記事はこちら。

第1弾の晴耕雨読・橋本拓さん・容子さんの記事はこちら(第1回第2回第3回
 第2弾の株式会社レイキモッキ・岡野正一さんの記事はこちら(第1回第2回第3回

鈴木詠介さんへのインタビュー③

馬を所有しやすい仕組みへのチャレンジ

(前回からの続き)

―― 前回、ホースケアガーデンのような馬を安心して預けられる場所があれば、「馬を所有するハードル」が下げられるというお話を伺いました。そのほかにも、考えていることがあると伺いましたが。

ありますよ!

今やりたいのは、「馬のサポーター制度」です。

―― おおー、馬のサポーター制度!! それはいったいどのようなものなのでしょう?

一言でいってしまえば、一口馬主に似た制度です。

うちで預かっている馬は、それぞれのオーナーさんから餌代などにあてる預託金を頂いてお世話をしています。
自分で世話をしたり、乗馬クラブに預けたりする場合と比べれば負担は小さいかと思いますが、それでもそれなりの負担にはなります。

それだと特定のオーナーさんだけに依存することになりますし、一部の限られた方にしか「馬を所有する」という選択肢が広がっていきません。

そこで、馬のサポーターになってくれる人を募集することで、サポーターの方にも応援をお願いして、オーナーさんの負担を少しでも軽減できないかと考えているんです。

―― なるほど! いってみれば「馬シェアリング」みたいな感じですね。

あくまで持ち主はオーナーさんですが、その馬が好きで、会いに来ることで価値を感じてくれる人がいれば、その価値の対価として応援のお金をいただくことで、疑似的に「共有できる」といってもいいかもしれない。

サポーターが増えれば増えるほど、オーナーさんの負担は減るし、その仕組みが広がっていけば「馬のオーナーになる」という選択肢のハードルが下がることになります。

―― それはおもしろいですね!

もともとうちにいた2頭の馬(ピリカとカエデ)を対象に、「シーズンサポーター制度」をやっていたのが始まりで、それを預かっている馬にもやってみたらどうだろうという感じです。

ピリカに関しては、ここに引き取られる前の北海道時代から固定ファンがいて、今も会いに来る方がいる。
その方は、ピリカに会いに来られることに価値を感じている。

その様子を見て、馬に会いに来られるという価値を共有することで、馬のオーナーになることの負担もある意味シェアできるのではないかと思いついたんです。

まあ、うちの2頭の馬に関しては、「自分の食い扶持は自分で稼いで」という思いもあったけど笑

―― そういう取り組みが広がると、さらに馬のオーナーになるハードルが下がりますね。

そのとおり!

馬のオーナーになる人が比較的、経済的に余裕がある人が多いということを考えると、潜在的にはニーズはもっとありそう。
でもどうしたらいいかが分からないひともたくさんいると思う。

そういうときにこういう仕組みがあれば、簡単に馬に関わることができる。

また、馬にとっても一時的に救われるより、仕組みがあって継続される方がありがたい。

こういう仕組みをつくることができれば、馬の居場所が勝手に増えていくだろうし、選択肢が増えると考えています。

ときがわ町を「馬のまち」に

―― 前回の最後で、「ときがわ町という場所が絶妙!」というお話がありました。以前に、「ときがわ町を馬のまちにしたい」とこともお聞きしました。

そうそう、やっぱりせっかくここに馬がいるんだから、地域の人と馬との関係をつくっていきたいし、地域での馬の新しい価値をつくっていきたい!

ときがわを「馬のまち」にしたいよね。

―― そのためにどんなことを考えているんでしょう?

馬カフェとか馬糞で使った堆肥で耕作放棄地を無人畑に変えるとか、やりたいことはたくさんある。

観光協会の役員にもなったので、観光イベントで馬に会えるというようなこともやっていきたいです。

馬は一つの切り口になると思っていて、うちに来たことをきっかけにときがわ町のことを好きになって通うようになったり、ときがわ町に来た人が、ふらっとうちに寄ってくれることも最近増えた。

―― これまでは違ったということなんでしょうか?

違いました!

新規に来る人が増えたのは、最近のことで、以前はオーナーさんと一部の競馬ファンで、リピーターが大半。

―― それは詠介さんが経営を引き継いだことで、キレイに環境が整えられたことによる変化なのでしょうか?

それもあると思います。
とにかくキレイにしたから笑

―― どういう人が多いでしょう? やっぱりファミリー層ですか?

餌やり体験とかはファミリー層が多いけど、そのほかはいろいろ。
年齢層も広い。

若い人が1人で手伝いに来ることもあるし。

あと意外に馬以外の動物を見にくる人もいる笑
ネコとか鶏とか。

―― いろんな人が来るようになったんですね。

新規で来る人が増えました。

もちろんときがわ町に来る人が増えたということもあるし、あとはいろんな人が「あそこに行けば馬が見られるよ」と紹介してくれるというのも大きいです。

―― ときがわ町の人とのつながりも広がってきたということですね!

うちをきっかけにときがわ町のことを好きになってくれたら嬉しいし、ときがわ町に来た人がうちに来て楽しんでもらえることもすごく嬉しいよね。

ときがわ町にはいろんな人がいて、いろんな魅力があるので、その一つの切り口になれるといいなと思います。

―― 観光協会の鏡ですね!笑

そういう意味でも、「地域にとっての馬の価値」をつくる・高めるということを意識していきたいと思います。

それにはときがわ町はぴったりだと思っている。
競走馬のふるさとは北海道だけど、「引退馬のふるさとはときがわ町」っていったらおもしろくない?笑

「ホースケアガーデン」という場所があることが大事

―― 最後に、ホースケアガーデンという場所自体を今後どのようにしていきたいか聞かせてください。

やっぱり「馬が暮らしている場所」というのは不動。
そのためには、もっと暮らしやすくしたいというのが根本になる。

そこはホースケアガーデンという場所に関しては変えてはいけないと思う。
ここはそういう場所であるべきだなと思っています。

それ以外のことに関しては、時代や環境の変化で柔軟に対応していけばいい。

場所があり続けることが大事。

―― 変えてはいけないところと変えていいところがあるということですね。それは経営を引き継いで3年経って、ある程度手応えというか方向性が見えてきたということでしょうか。

というよりシンプルに、経営者なので「自分で思うように変えられるのがいい」という感じ。

ダメだったら辞めればいいし、やりたかったらやればいいし。

やらなきゃいけないことをやってきて、ある程度形ができてきたことで、だんだんやりたいことができるようになってきたというのがあるのかもしれません。

―― 「場所があり続けることが大事」というところをもう少し詳しくお聞きしたいのですが。

たとえばここには馬以外にも、猫やら鶏やらがいます。
当然、猫や鶏が好きな人たちもいるわけです。

先ほどもいったとおり、馬以外の動物を見にここに来る人もいますが、猫を見にくる人たちにとってはここは「猫のいるところに馬もいる」場所なんです。

最近、保護猫も増えているので、馬のサポーター制度がうまくいけば、もしかしたらそのお金で保護猫の居場所をつくれるようにもなるかもしれない。

俺一人で全部やるのは難しいけど、この場所があれば、馬たちがその子たちを養っていけるくらいのお金を稼いでくれれば、「ホースケアガーデン」の一員として一緒にやっていくことができる。

広い意味で、「人と動物たちが一緒に生活していける場所」

そんな場所でありたいなと思っています。

―― 「人と動物たちが一緒に生活していける場所」ですか・・・ステキな言葉ですね!
ホースケアガーデンがそういう場所になることもそうですし、ときがわ町がそんな価値観を持つ人たちの集まるまちになったらステキですよね。
 本日はありがとうございました!

ときがわホースケアガーデン

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