「RESAS×地理教育」(人文地理学会 地理教育研究部会)に参加しました

2021年8月2日(月)、人文地理学会 地理教育研究部会の「RESAS×地理教育」がZoomで開催されました。
Twitter上で知り、誰でも参加可能というので「これは!」と思い、参加しました。

地域経済分析システムRESASとは、Regional Economy Society Analyzking Systemの略称です。
2015年4月に、経済産業省と内閣府の連携により開発されました。

今回の研究部会のテーマは、従来はまちづくりとか地域経済活性化といった視点で活用されることが多いこのRESASを、地理教育という視点から活用可能性を探るというものです。

私も、公務員時代は産業振興のために活用したり、移住・観光といった視点で人の動きを見るためにRESASを活用してきました。
これまでは「教育」という視点からは考えていなかったため、最近、地域での教育に関わり始めていることもあって非常に興味を惹かれました。

RESASの特徴

研究部会の内容に入る前に、RESASの特徴を整理しておきます。

私はRESASの特徴として、次の5点が挙げられると考えています。

  • 数字の羅列になっている統計データを、グラフや図で可視化できる
  • 各省庁の統計データを横断的に把握できる
  • 複数の都道府県・市区町村との比較が可能
  • 操作が直感的で簡単

つまり、誰でも簡単に地域の人や産業の動きを視覚的にit把握することができます。

また、このことによって、統計データ集めやグラフ・図への加工という作業負担と時間を減らすことができ、分析や課題解決といった本来やりたいことに力を注ぐことができるということが一番のメリットだと思っています。

ちなみに以前、私のブログでもRESASを使って、ときがわ町の人口や産業の分析を試みたことがありました。
ご興味のある方は以下のページをご覧ください。(経済が途中で途切れており、尻切れトンボで恐縮ですが・・・)

“RESAS”を使ってまちを知ろう(1) ~図とグラフで統計データが見やすく&使いやすくなるお役立ちツール~
“RESAS”を使ってまちを知ろう(2) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】人口マップを見る①~
“RESAS”を使ってまちを知ろう(3) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】人口マップを見る②~
“RESAS”を使ってまちを知ろう(4) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】人口マップを見る③
“RESAS”を使ってまちを知ろう(5) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】人口マップを見る④
“RESAS”を使ってまちを知ろう(6) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】地域経済循環マップを見る①
“RESAS”を使ってまちを知ろう(7) ~【埼玉県比企郡ときがわ町編】地域経済循環マップを見る②


研究部会のメモ

今回の研究部会での発表は以下の3つでした。

①RESASを使った地域学習の可能性と課題(兵庫県立大学 太田尚孝氏)
②RESASを活用した地域課題の分析と提案(品川女子学院 河合豊明氏)
③RESASを活用した地域デザインの授業実践 STEAM教育との関わりで(兵庫県立加古川東高等学校 小橋拓司氏)

順にメモを書き留めておきます。

「⇒」は個人的な意見や感想です。

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①RESASを使った地域学習の可能性と課題(兵庫県立大学 太田尚孝氏)ma

●データを用いた教育活動について
・データを用いた教育活動は、都市計画やまちづくりとの親和性がある
・分析や提案には、客観的データとフィールドワークやヒアリングを組み合わせる必要がある
・RESASはGISに似た機能もあり、GISほど専門的な技術は求められないため使い勝手がいい

●地域学習について
・これまでKKO(勘、経験、思い込み)という名の魔力が根強かった
・事実や根拠に基づく具体的な提案や説明は重要
・地域資源を再確認する機会に
・まちづくりには鳥の目(空からまちを見る)、虫の目(現地で町を知る)、魚の目が必要(時代に流れを理解する)
 → RESASは鳥の目、魚の目として活用できる
   ただし、できることは限られる
・RESASが得意なのは、人口、経済、観光などの動き

●RESAS活用の課題
・学習のどの段階で、何のためにRESASを使うのかという目的の明確化が重要
 ⇒ 地域の理解や課題解決のため
   データリテラシーを身につけるため
   RESASの操作方法を学ぶため
   調べ学習の探究スキルを身につけるため ・・・
・データを理解できる能力は必須
・データを過信しない
 → データはデータ。実際に起こっていることを知るには、現場知や構造的理解が必要
・RESASのデータがすべてではない
 → 必要に応じてRESASにないデータも使うことを知る
・地域を対象とする学習の意義は何か?
・地域学習には、何のために、何をすることが求められるのか?

②RESASを活用した地域課題の分析と提案(品川女子学院 河合豊明氏)

・地理の授業ではなく、総合学習として使う先生が多い

●RESASの活用を通じて得られるもの
・データリテラシー
・データをもとにストーリーをつくる力
・データを通して実感したことが自分ごとになり、さらなる探究意欲につながる

●RESAS活用の目的
・提案の良し悪しではなく、データリテラシーを身につけたり、地域への目を養ったり、根拠に基づいた考え方や説明をできるようにしたりすることが目的
 → RESASだけを使う必要はない

●活用可能性
・テストでの出題にRESASを活用
・地域間の比較でモノを考えられるようになることは、地理における2歩目のステップになる

③RESASを活用した地域デザインの授業実践 STEAM教育との関わりで(兵庫県立加古川東高等学校 小橋拓司氏)

・協働を通じて、データや根拠に基づいた提言、効果的な表現方法として地図やグラフの活用
 → RESASを活用
・RESAS for Teachersを参考に
 → 目標設定が適切、地域課題が自分ごとになる
・問題意識として、高校生は地域と関わりのないまま大学に進学、または就職してしまう
 → 地域への愛着がない

●実践方法
・ワールドカフェ形式
・RESASなどによる統計データとインタビュー・アンケートなどによる一次・定性データの組み合わせ
・他の地域と比較してはじめて、対象地域の実態がわかる
 → 人口(必須)+産業、経済、観光(班ごとに選択)

●課題と可能性
・地理への応用
・修学旅行や研修旅行の下調べとしてRESASは活用可能
・RESASは地域探究の基本的なツールになり得る
 → ただしこれだけで十分というわけではない
   他の統計データやインタビュー、アンケートなどの現地調査を組み合わせることも重要
・地理総合の定番教材になる得るのではないか

地域教育におけるRESASの可能性

ここで「地域教育」におけるRESAS活用の可能性について私なりに考えたことを述べてみたいと思います。
(紛らわしいですが、「地理教育」ではありません)

結論からいえば、教育分野でのRESAS活用は「あり」だと私は思います。

その理由として、GIGAスクール構想が進んでいるということがあります。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、令和2年度に全小中学校に対して、児童・生徒への1人1台端末の導入が一気に進みました。

RESASはGIGAスクールと非常に相性がいいのです。

1人1台の端末を使っての調べ学習で、定性的な言葉だったり画像だけでなく、統計データのような定量的なデータを使うことで、内容に説得力を持たせることができます。
そのようなときにRESASが役立ちます。

自分で統計資料からデータを引っ張って来て、図やグラフを作成しようとするとかなり手間がかかります。
そもそもどんな統計資料があるかも分かりませんし、どこにそれがあって、その数字が一体何を意味するのかも理解しなければなりません。

また、年ごとの推移を追おうとすると、また別の統計資料を探さなくてはなりません。
これは慣れない人にとってはかなりのハードルになります。
(慣れている人でも、鼻歌交じりというわけにもいかないでしょう)

RESASはこのような手間が一気に省けます。

知りたい情報を選んでいけば、ある地域の人口の推移だったり、産業の特徴だったりを、数クリックで図やグラフとして表示することが可能なのです。

データ利用の導入編としては非常にもってこいといえるでしょう。

1人1台の端末を使って調べ学習をする子どもたち

もちろん使うにあたっては、それがすべてではないことや、そのデータが何を意味するものなのかは十分に理解しながら進めることが必要です。
だからこそ、そういったいわばデータリテラシーを実践の中で身につけるためのツールとして、操作がGISよりも簡単で、視覚的に捉えられるRESASは有効ではないかというのが私の考えです。

これまでまちづくりやビジネスのために活用することしか考えていなかったRESASですが、今回の研究部会で新たない視野が開けた気がします。

2015年以降のデータ更新がないのが気になっていましたが、2020年の国勢調査の結果もそろそろ公開されるはずなので、その結果がRESASに反映されるのを期待しつつ、今後の地域教育への活用を視野に入れていきたいと思います!

(Twitterで情報提供いただいた河本さん、ありがとうございました!)