熱き魂を注入される「地元創生」×「起業」本

今回は九州パンケーキで知られる有限会社一平の代表取締役である村岡浩司さんの著書『九州バカ』

なかなかインパクトのあるタイトルです。

感想を一言でいうなら、「熱量がハンパない」ですw

それでいてただ情熱に駆られて行き当たりばったりに動くのではなく、失敗しながらも戦略的に行動と成果を積み重ねてきた経緯を知ることができます。

九州パンケーキやカフェのシンプルでオシャレなイメージとは裏腹に、村岡さんがやられていることは泥臭く、ひたすら九州中を駆け回り、そのうち世界にも飛び出してしまったという感じです。

そのエネルギー源はなんといっても「九州」という地元への想いに尽きるかと思います。

巷では、政治や行政の世界で「地方創生」という言葉が盛んに使われていますが、村岡さんは「地元創生」を提唱しています。

自分が立脚する、生きる場所としての「ふるさと」こそ、その人が創生すべき「地元」であるという信念に満ち溢れています。

今回は本書を題材に、「地域でのしごと」「地域での起業」ということについて考えてみました。

なぜ「地域で起業」か

いきなり余談ですが、私はときがわカンパニー代表の関根雅泰さんとの共著で、『地域でしごと まちづくり試論』という本を執筆し、2021年2月に埼玉県東松山市のまつやま書房さんから出版されました。

この本でいう「地域でしごと」とは、自分事としての仕事、つまり広い意味での「起業」を指して使っています。

私がミッションとして掲げている「地域でしごとをつくる人をつくる」というのは、地域の中で自分事としてのしごとをするような人(=起業家)を増やすことを目指すものです。

ではなぜ地域にしごと(起業)が必要なのか。

これに3つの理由があります。

1つ目は、地域に産業をつくる必要があること。
新型コロナの影響で地方部への移住の関心が高まっていますが、依然として地方部では人口減少が続いています。

人口減少自体は必ずしもいけないとは思っていませんが、それによって地域を支える産業の力が失われてしまうことは間違いなくマイナスだと思います。

その典型が農業や林業です。
担い手が不足すると農地や山林が荒れてしまい、地域の貴重な風景や生態系などが失われてしまいます。

また、産業が衰退することは若者の地域外流出にもつながります。
そういう意味で、地域にはお金を稼ぐ場とお金を使う場の両方が必要だと思っています。


2つ目は、地域に働く場所をつくる必要があること。

産業が生まれたら、今度はそこで働く人も必要です。
自ら道を切り拓き、風呂敷を広げる人(起業家)ばかりではなく、つくられた産業をしっかり回すことができる人(畳み人)の存在もやはり必要です。

そうした人の受け皿として、やはり産業をつくり、育てることが重要です。

地域にいろんな産業があることは、地域で働く人を呼び込むことにつながります。

3つ目は、地域を自分事にする必要があること。

地域でしごとをつくる(起業する)ということは、地域に根差したことを仕事にするということです。

たとえば地域の課題を解決したり、地域の人のためのお店を開いたり、つまりは地域で必要とされる役割を果たすということだと思っています。
当然ながら、地域のことをよく知り、考えなくてはいけません。

そうなると地域で起こることに対して当事者意識を持つようになります。
私は地域が元気になるには、人口を増やすことではなく、この当事者意識を持つ人をいかに地域に増やすかがカギだと考えています。

地域に当事者意識の高い人たちが多いというのは、どうしたら地域が良くなるかを考えている人が多いということを意味します。

そのため地域で起業する人が増えるというのは、当事者意識を持つ人を増やすという意味では非常に有効だと思っています。

じゃあどうしたら地域で起業する人が増やせるか。
明確な答えは持っていませんが、村岡さんが述べているように、仲間の存在が大きいのではないかと仮説を立てています。

一緒に仕事をしたいと思える仲間、応援し合える仲間がいること。
そういう人たちに共感する人が、地域の中からも外からも惹きつけられてきて、「よし自分も!」と思えるようになるのではないか。

このあたりに関しては、私はまだ起業家の育成を語れる立場ではないのであくまで仮説です。
今はまずはしっかりと自分の事業で利益を出す。

そのようにして自分の事業をつくる中で、地域での自分の役割、自分の持ち場をつくっていけたらと思います。

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以下は本書の気になるところを抜粋した、通称「まとメモ」です。

「⇒」は個人的な感想、意見を示したものです。

まとメモ

・九州は、僕が生まれ育ったふるさと。そして僕がビジネスを通じて全力で盛り立てていこうとしている、自分の持ち場です。

・日本にはそれぞれの地名を冠したローカル(地方)ブランドはいくつも存在するけれど、リージョナル(地域)ブランドは北海道以外にはまだ存在しない

・「地方創生」という言葉が使われ始めて数年。補助金を使ったイベントによる一時的な賑わいだけでは、根本からの活性化にはつながりません。そもそも「活性化」という言葉を定義するためには、「誰が」という主語と「何のために」という目的をしっかりと論じる必要があります。

・狭い田舎のコミュニティでは、生活が豊かにならないとたちまち悪者探しが始まります。しかし、仮に責任者をあぶり出したとしても、他人のせいにして解決する課題などありません。目の前の現実を自分たちで引き受け、主体的に次の一歩を踏み出すしかないのです。

・中央官庁に収集された”どこかのまちの成功事例”を統治的に横展開するというやり方は、すでに破綻しつつあります。これからは、それぞれの地域から主体的に湧き上がる、地元文化に根差したオンリーワンの未来創造が不可欠でしょう。

・起業家が、自ら生み出したビジネスモデルによって既存のビジネスや社会も出るを一気に陳腐化させ、再構築して新しい価値を伴う成長に変えていく。アントレプレナーシップは、そのようなプロセスを実現するための礎となるものです。すなわち、「何かを創り出そうとする意志」と「事業の構想能力」、そして「経営資源を構築するパワー」です。

・一人ひとりが、自分の愛する地元を一番に考え、ローカルが元気になってこそ、日本の未来はある。

第1章 地元創生起業のすすめ

・地元に愛され、育てられて、なおかつしっかりと稼ぎながら、成長への欲求も否定せず、利益は地元へ貫流するエコシステム(ビジネス生態系)を生み出すビジネスの創造。それを僕は「地元創生起業」と呼んでいます。

・ふるさととは「本音で語り合える仲間がいる場所」。自分が心から信頼を寄せ、「この人と一緒に歩んでいきたい」と思える人がいる場所です。

・ブランドは発信する側ではなく、受け取る側に醸成されるもの。社会の中で、キャラクターをはっきりさせ、差別化を図り、それを戦略的に発信し続ける活動。持続可能なブランディングの条件は、本質的な価値を背骨にすること。

・その商品やサービスを提供することによって「何を伝えたいのか」「何を届けたいのか」、ということが重要です(理念とコンセプト)

・地元創生起業で、とりわけ重要なことの一つ。それは、「プロダクト」ではなく、地域内に経済の循環が生まれるような「産業」を創造すること。商品さえつくれば産業が持続し成長していくのかというと、そうではないのです。

新しい事業に取り組んでいくとき、「return(利益、報酬)」と同様か、それ以上に「dream(夢)」を求めたいと思っています。起業は、夢をつかむための挑戦。しかし、夢をつかむためには、リスクや自己犠牲も必要。だから「No risk,no dream」です。

・他人の知恵に頼りきりで責任者が不在の事業、初めから助成金を頼りにした事業では、誰もリスクを背負いません。そもそもリスクが存在しない世界、それは単なるものづくりの実験であり、僕にとってはビジネスとは呼べない行為です。

第2章 カフェとまちづくり

・タリーズコーヒーで僕がやりたかったこと。それは、宮崎の街角にこれまでなかった風景を描くこと。そしてそれは自分が思う理想的なコミュニティのあり方を、カフェという形で表現することでした。「僕らにしかできない、今よりも半歩先の風景」をここで表現し、お客様や仲間を驚かせ続けていきたい。

・悶々と問い直す日々を過ごしながら、悩み続けた末に、僕自身がたどり着いた結論は、「やはり自分は、自分の本分である事業家として成功しなくてはならない」ということでした。会社をしっかりと成長させることが先。まちづくりに対する最大の貢献は、まずは自分の店が繁盛することだ。まちの将来を語るためには、自分自身がしっかりと事業基盤を築いていくことが欠かせない。

⇒ 株式会社温泉道場の山﨑社長も同じことを口にされていた。まず自身がしっかり利益を上げて税金を納めること。

第3章 九州の素材だけでつくりたかった、毎日のおいしさ

・地元を大事にして、地元を盛り上げるために、活動の軸足は自分の生きる場所にしっかりと根を張ること。そして、ビジネスの成長から得られる利益を地域の活力に循環させるために、もう一方の足は勇気を持ってより広いマーケットへ、世界へと踏み出すこと。このようなあり方がこれからの起業家に求められている気がしてなりません。
Think locaiiy,act regionally,leverage globally.
常に地元志向で考え、地域全体へと意識を拡げて行動しながら、グローバルで勝てる自社の強みを見つけたら、いってんとっぱでレバレッジ(小さな努力で大きな利益を生み出すこと)を効かせてビジネスを拡大していく。そんな事業展開が僕の理想です。
地元への想いと事業家としての志とが重なったときに、地元創生における自分の役割が自ずと見えてくるのではないでしょうか。

第4章 世界をかけるオール九州のプロダクト

・僕らが売ろうとしているものは、一過性の流行りのブランドではありません。地域に根差した確かなストーリーであり、何よりもお客様が過ごす時間や空間そのものが商品です。そこから生まれる思い出や感動をしっかりと積み重ねていくことこそが、商売の本質なのだと思います。

・僕らのような小さな会社、小さな組織が成長するためには、しっかりと支えてくれる外部の協力者の存在が欠かせません。プロジェクトごとにしっかりと座組を行い、「チーム九州」とも呼べるようなネットワークを築いていく作業が必要です。

第5章 地元と世界をつなぐハブになる

・理念と利益は、補い合う関係。社会への貢献は、会社の成長があってこそ成し遂げることができます。200年ほど前に二宮尊徳は「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」と説いています。経済が伴わなくては、どんな理想も戯言なのです。

・役所と民間。公共と私事。志と現実。どちらに偏りすぎることもなく、バランスを保ちながら社会の全体最適を目指していく。それが理想的な地元創生の姿だと思っています。
 ⇒ まさしく「中庸」
   地域創生には「中庸」が求められる

・日本はこれから猛烈な自己責任社会になる予感がします。さらなる都心集中と、一方で個性豊かな地方都市への大移動が進む。ライフスタイルが二極化し、若者に選ばれない自治体は一気に衰退していくのです。

・地域を思う志高き起業家が一人でも多く生まれていけば、やがて彼らがまちの未来を創生する”まちの種”となって、新時代にふさわしい市街地の姿を描き創造していくでしょう。

・地方が豊かであるためには、新しい時代のフレッシュな感性を受け入れる度量が何よりも大切です。併せて、先人を敬い歴史を理解するために、「語り伝える人」の存在も欠かせません。

・それぞれのコミュニティに存在する個性豊かな人と人とがつながっていくことで、もはや僕らの間には、県境などの”見えない境界”は存在しなくなる。地域の価値を見つめ直し、各々が地元との関わりの中で生きていく道を見つける。地元創生を目指す。一人ひとりが主役の考え方。自由に自己を解き放つ生き方。そんな理想のライフスタイルが実現する九州新時代は、すぐそこまで迫ってきています。