『公務員の働き方デザイン』を「元公務員で起業した」立場から読んだら・・・

実際にお会いしたことはありませんが、私が務めていた越谷市に近いさいたま市の職員で、「2枚目の名刺」の活動やSNSに興味と共感を抱いていた島田正樹さんのご著書ということで関心を持っていました。

「公務員の働き方」とあるので、公務員を辞めて起業した私は想定ターゲットから外れるかもしれませんが、個人的には公務員としての働き方というよりも、島田さんのキャリア観に興味があったので本書を手に取りました。

読みながら、「あ、これは魅力ある公務員になる」ための本だなと感じました。
私が解釈した「魅力ある公務員」というのは以下のトリプルミーニングです。

一つ目は、市民あるいは行政サービスを受ける利用者すべてにとって魅力的な公務員になるということ。
二つ目は、組織にとって魅力的な人材になるということ。
三つ目は、公務員という仕事が自分にとって魅力的になるということ。

一つ一つの項目が非常に丁寧にわかりやすく書かれ、正直「こんな公務員だったら安心して頼れる」「一緒に仕事してみたい」「こんな公務員になれたら楽しそう」と思いました。

同時に、公務員を辞めた身(私は2020年3月に公務員を退職)としては、「10年くらい前にこの本があれば」と思いましたし、おそらく私が公務員生活で実現できなかった心残りのすべてがこの本に詰まっている気がしました。

一応お断りしておくと、公務員を辞めたことを後悔しているということでは決してありません。
個人事業主となって今やっていることには満足していますし、家族との時間が増えたことにも満足しています。(今は時間のコントロールに苦労していて、土日や朝夜に仕事をやらないといけない破目に陥っていますが、少なくとも子どもの送迎はできるので)
大きかった通勤時間や満員電車、通勤トラブルへのストレスもなくなり、辞めてよかったと素直に思います(公務員が嫌だったということではなく)

なので、私の後悔や心残りというのは、公務員を辞めたことに対してではなく、
「どうして公務員時代にもっといろんなことを経験しておかなかったのか?」
「もっといろんな人と会ったり話したり、一緒にいろんなことをやればよかった」
ということです。

本書に書かれていることができていたら、きっともっと充実した公務員生活を送れたでしょうし、もっといろんな世界が開かれていたでしょうし、辞めた今ももっともっといろんなことができるようになっていたでしょう。

そんなことから、私が公務員時代にもっと早くこんな本があれば、あるいはこんなロールモデルが身近にいればと思ってしまったわけなのです。

以下、長文になりますが、「6つの共感ポイント」と「2つの違和感」について述べていきます。

6つの共感ポイント

本書は丁寧すぎるほど丁寧に書かれているというのが全体的な印象です。
こんな優しい文章が書ける方はそれだけで尊敬してしまいますし、共感ポイントも多数ありました。

個人的なツボは、
「秘書課が忘れたときに備えて、現場にも同じものを用意しておく必要がある」

という件でした。

「あるある!」と思わずうなずいてしまいました。
現場からすると、「そんなん秘書課のミスじゃん!なんでこっちがそこまで気を遣わないといけないんだ」と思いたくなります。

でも、本書にも書いてあるように、いくら自分は事前にデータを送っていても、必要なときにそれがなかったら何の意味もないのです。

もっといえば、担当課(自分の所属課)と秘書課のやり取りは行政内部の問題であって、そこにいるお客さん、市民の方にはそんな事情は関係のないことです。
あくまで考えなければならないのは、「お客さんがどう思うか」なのです。

これは些細な事例でしたが、以下では、本書で大きく共感した6つのポイントをまとめてみました。

共感ポイント①

公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが住民の幸せにつながる

先日、私は以下のようなツイートしました。

まさに同じ視点でしたので嬉しくなりました。

これは本当にそうです。
行政の仕事をしている公務員が、いつもブスッとした顔でつまらなそうに仕事をしていて、お客さん(市民)が幸せになるでしょうか。
まちが良くなるでしょうか。

私はそうは思いません。

であれば、公務員が幸せになることが、お客さん(市民)を幸せにし、幸せなまちをつくることになるというのを大前提にしなくてはならないのではないかと最近は考えています。

共感ポイント②

やりたい仕事=やらせてもらえる仕事にするために、自分がコントロールできる目の前の仕事にエネルギーを集中して影響の輪を広げる

これは私も取り組んでいたことですが、上司や同僚の要求にしっかり応え、期待以上の結果を出すことで、自分の要望も通りやすくなりますし、何より信頼を勝ち取ることができます。

これに加えて、興味があることには自ら「巻き込まれにいく」ということをやっていました。(今も変わらずですが)

ずうずうしく思われるかもしれませんが、「こういうことに興味があるんだな」と認識してもらえるようになりますし、「あ、こいつは使えるな」と思ってもらえればしめたものでチャンスは広がります。

共感ポイント③

人間関係をデザインする

たぶん私が一番欠けていたことがこの部分です。
無意識にやっていた部分もありますが、逆にいうと意識的に人間関係をつくることができていなかった。

職場の同僚だけでなく、公務員の信用をいかして、いろんな自治体、業界の人とつながっていれば、もっと世界は広がっていたんじゃないかと思うことがあります。
もっといえば小中学校、高校、大学・大学院時代からこれができたら…。
ホント友達少なかったんで苦笑

今もできているかというと自信はないですが、意識はできているぶん少しはマシになったのかと。
特定の何、ということではなくとも、「何かあったらこの人にとりあえず相談してみよう」、そう思われるような人でありたいと思っています。

共感ポイント④

「自分にはまだ早い」「できるかどうか不安」といった仕事をする機会が巡ってきたら、それを恐れて身構えるのではなく、成長のチャンスだと思って飛び込む

これは今も私が心掛けていることに重なります。

自分に声がかかるのは、自分ではそうは思っていなくても周りが私ならできると期待している証拠かもしれません。
自分では気づかなかった強みに気づく、あるいは新たな強みを手に入れるチャンスだと思っています。

やってみてやはり向いていなければやめればいい(もちろん途中で投げ出すのはNGですが)だけです。
やってみればその経験は確実に残ります。

お世話になった上司は、「頼まれごとは試されごと」「返事は0.2秒で『ハイッ!』」ということをよく口にしていました。

共感ポイント⑤

新しく身につけたいことでも、伸ばしたい自分の強みでも、自分の意思でサードプレイスという稽古場を使って磨くことができる

公務員は特に、キャリア形成の特徴や地域とのつながりの強さ、そして社会貢献への欲求の強さなど、サードプレイスと非常に相性がいい職業

このことに関しては、私がサードプレイスの重要性に気づいたのは退職を意識し始めた時期と重なります。
その一番の理由は、人生・働き方にもっといろんな可能性や選択肢があることに気づかされたことによります。

また、その頃、山田崇さんの『日本一おかしな公務員』を読んだこともあり、公務員を飛び出そうと決意したのでした。
もっとも、文字通り「飛び出してしまった」わけですが。

安定している公務員だからこそ、サードプレイスでのチャレンジはきっと実りあるものにできる大きな可能性があると感じます。

共感ポイント⑥

公務員にこそキャリア・デザインが必要

キャリア・デザイン、またはキャリア教育は、私が今最も関心があるものの一つです。

中でも、以下の文章に惹きつけられました。

人生というキャリアを完走するためには公務員としてどう生きるかにとどまらず、いかに自分らしいキャリアを積み重ねていけるかが大切です。

そうなんですよね。

このChapterの後の文章で述べられているように、公務員として働くことは目的ではなく「手段」なんです。
自分がより幸せになるために、何を選ぶかが大切だということだと思います。

たぶん私の場合はそれが起業することだったということでしょう。
起業も目的ではなく、あくまで手段にすぎません。
重要なのは、それが正解ということではなく、今の自分が納得できる最適解であるということです。

それを自ら考え、決めることこそが、「主体的に生きる」ことだと私は理解しています。

また、自分がより幸せになれる選択をすることで、周囲の人にも幸せを分けることができ、それがひいては地域の幸せにもつながっていくのではないかと思っています。
自分が幸せになる、それによって周りの人も幸せにするというのは公務員でなくともできることです。
私はその道を公務員以外の選択肢で目指すことにしたというわけです。

でもそれが公務員を選択することで実現できることだったら、より全体的な「幸せなまちづくり」を実現しやすいのではと一方では思っていたります。
期待値が高く、ちょっとしたことでも叩かれやすい公務員の中には、残念ながら自己肯定感が低い人が多いと感じることがあります。
でも彼らが主体的に自らの働き方を選択でき、公務員としてのキャリアをデザインすることができたら、もっとおもしろいまちになっていくのではないかと期待しています。

願わくば、本書をすべての公務員に読んでもらいたいですね!

ここまでは「6つの共感ポイント」を述べてきました。
次からは、「2つの違和感」について、あえて述べてみようと思います。

公務員を辞めて起業した立場だからこその2つの違和感

ここからは「公務員を辞めて起業」した立場から、本書をあえて斜めから読んでみて感じた「2つの違和感」について述べてみます。

一番大きかった違和感としては

①公務員は、地域を良くしたいと思って公務員になった人ばかりであるということが前提になっている
②公務員であることが大前提であり、それ以外の選択肢に関する視点が薄い

ということです。

「公務員の働き方デザイン」なので、②は当たり前といえば当たり前なのですが、あえて言及してみます。

①公務員は地域を良くしたいと思って公務員になった人ばかりであるということが前提になっている

まず①について。
なんとなく、「地域を良くしたいと思って公務員になった人ばかりであるということが前提になっているのではないか」と思えました。

間違いではないですが、公務員の100%がそうかというと、残念ながらそうではないと思います。
公務員を志望する理由としてよく聞くのが、「安定しているから」。
すべてとはいいませんが、一定程度の割合でいるはずです。
ならば、そういう人がどうやったら「地域を良くするために働いているという自覚をすることができるか」という視点も必要なのではないかと思いました。

別に「安定しているから」公務員を選ぶのが間違いだということではありません。
自分の人生を考えたときに、まずは安定した生活が送れる基盤を築くのは大切なことです。

ただ、公務員は「安定している」からこそ、「もっといろんなチャレンジができる」、「もっとチャレンジしてもいい」と私は思うようになりました。
もっともそれに気づいたのは退職を決断してからのことでしたが・・・。
山田崇さんの『日本一おかしな公務員』を読んだ影響も大きかったです。

「安定しているから公務員」派は、得てして最低限いわれた仕事しかやらない人になりがちです。
そこにどういう働きかけをしたら、「魅力的な公務員になる」ことへの動機づけができるのかを知りたいと思いました。

一番いいのは本書を読んでもらうことですが、そもそもそういう人にどうやってこの本を読んでもらうのかが問題かもしれませんね。

②公務員であることが大前提であり、それ以外の選択肢に関する視点が薄い

こちらは天邪鬼な思考かもしれませんが、辞めた身としてはつい「そもそもなぜ公務員なの?」と思わずにいられませんでした。
公務員も数ある働き方の中の一つの選択肢にすぎないはずだからです。

「そりゃ公務員の働き方に関する本だから」といわれればそれまでですが、本書で強調されている「主体的に働く」「自分で働き方やキャリアをコントロールする」ということを考えたとき、どうしてもその考えが頭をよぎってしまったのでした。

そもそも自分が、自分の人生でどうありたいのか?
どんな人生を送りたいのか?
そのためになぜ公務員を選んだのか?
公務員以外の選択肢もあるのではないか?

私自身が公務員を辞めて起業したこともあり、人生全体のキャリアに思いが飛んでしまったのです。

Chapter5「キャリアをデザインする」では少しこのことに触れられていましたが、もっと強調されていいように思います。
島田さん自身はおそらく、主体的に公務員という仕事を選んでデザインできているし、キャリアコンサルタントの資格の勉強をされているということなので、このあたりは意識的にできているのだと思います。

でもそういう人ばかりではなく、①で触れたように「なんとなく」「消去法」あるいは「結果的に」公務員になっている人も一定程度いるはず。

なので、元公務員、そして今は個人事業主として起業している立場としては、公務員のキャリア教育やアントレプレナーシップ教育(起業を勧めるという意味ではなく、主体的に考え、決めるというマインドセットの習得)の必要性があるのではないかと最近では考えています。

「どうしたら主体的に公務員を選択した」と思えるようになるかということですね。
これは①の違和感につながる問題でもあります。

まあそもそも今や公務員でない私は想定ターゲットから外れますので、ここまでは言い過ぎな気もしますが、あえてということで指摘してみました。

まとめ

以上、元公務員の視点から、「6つの共感ポイント」と「2つの違和感」について『公務員の働き方デザイン』の感想を書いてみました。

最近、公務員の方による出版が多いような気がしますが、公務員が何を考え、どのような想いから仕事をしているのかを発信することはすごくいいことだと思います。

私は今は公務員ではありませんが、元公務員として、「半分中・半分外」の立場で、公務員の方と民間の方の間をつなぐ役割を担っていければと考えています。