「関係人口」「地域教育」に続く研究テーマになりそうな予感

公共施設マネジメントというと、「行政の仕事」というイメージが強くありますが、私が興味を持ったのは、庁舎などのワークスペースを除いて、公共施設の利用者の大半は住民なり在学・在勤者であるならば、施設の運営者は必ずしも行政職員でなくてもいいのではないか、ということです。

重要なのは、「なんのためにその施設があるのか」という目的と、そのために「何をするのか」だと私は考えています。
それが明らかになれば、それをやるのにどうしたら一番うまくやれるか、うまくいくのかを考えるのが行政職員の役割ではないかと。

行政がやるのが一番うまくやれるのであればそうすべきだし、他にうまくやれる人がいるのであればその人に任せるという選択肢もあります。
もちろん、そこには常に「費用対効果」という視点も必要でしょう。

また当然ながら、行政職員だけで考えても答えが出ないこともあるかと思います。
そんなときも誰かを存分に頼っていいと私は思います。
なぜならば、その方がその施設をつくった目的をより確実に実行できるだろうからです。

重要なのことは、行政が全部やることではなく、達成すべき目的のためにその施設どう効果的に使われるかを、行政がコントロールできることなんだと思います。

また、民間は民間で、その施設に行政が本来の目的を置いていない価値を見出すこともあるでしょう。
そんなときは行政と民間で、よりその施設が価値を発揮できる運営の形はどのようなものをかを対話によって創り上げていくことができると、付加価値が高くなります。
さらには地域住民も巻き込んで三者で共創することができたら理想です。

そうはいいつつも、そこはやはり「公共施設」ということで、活用するためのさまざまなルールが存在することも確かです。
ルールを、「規制」ととらえるのではなく、よりうまく活用するための「足場」ととらえて使いこなせるようになれたら、きっといろんな道も開けそうな気がします。

仲間と2021年3月31日に立ち上げた「一般社団法人ときがわ社中」も、このあたりの公共施設の利活用には高い関心を持っていますので、比企つづき研究していきたいと思います!

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以下は本書のまとメモです。
気になる部分を読書メモとして抜粋しています。

「⇒」は私の個人的メモ

まとメモ

着実な公共施設マネジメントをすすめるための論点

・マネジメント推進で留意すべき5つの視点
①中長期目標を設定する「総合計画型」のプランでは実施への過程がみえにくい。3年程度で具体的な地域や施設を想定した「実施計画」をシンボル、モデル的に組み込む必要があること
②事業・施設別の財務諸表を整備し、単なる施設マネジメントではなく、資産マネジメントとしての視野で、単年度・現金主義の財政運営から転換を図ること
③更新財源の確保という根本の課題を解消するため、指定管理者制度や民間委託などで経費削減やノウハウ活用などを進める必要があること
④ほとんどの公共施設の日常的な利用者は全住民の1割以下。施設の機能統合を軸に、公共施設のあり方を根本から議論する必要があること
⑤公共施設の統廃合は、縦割り組織を越える存在である首長を軸に、効率的な意思決定ができる体制の仕組みを検討する必要があること

・「誰もが利用できる施設」ではあるが、利用者は極めて少数である
 (新潟市のアンケート調査では、公共施設を利用している住民の割合は、最高は図書館の15%で、ほとんどは10%以下。利用していない住民は最大97%にも及ぶ)

未体験の「計画策定」に直面する自治体

・さいたま市では、4年間をかけて「公共施設マネジメント計画・第1次アクションプラン」を策定
 → 4年の歳月の間に公共施設マネジメントを巡る議論は、総合的な財政問題にまで発展した
 → 策定したときには既に、時代変化に対応できない部分が目立つようになる
 → 机上での「計画」を策定しても、その実現のためには、公共施設を利用している個人、法人、団体の合意形成を図らなければならないので、机上の計画通りに進展する保証はまったくない

 ⇒ 公共施設マネジメント計画に限らず、行政計画は策定に複数年を要するものも珍しくない。ある程度の長期ビジョンは必要だが、VUCAの時代にはリスクとなる。小さな変化を、多数起こし、継続する、小さなpのpDCAが必要

 ⇒ 合意形成が必要だからこそ、利用者がほとんどいない公共施設は変えられる可能性が大きいのでは!

・「完成(策定)された計画を実施する」というよりも、実践による課題をフィードバックしながら、さらに短期的な計画を実践によってチェックしながら、必要な修正を図るような「走りながら考える」手法を組み込むことが必須となる

・行政サービスのポートフォリオ(すごくわかりやすい!)

出典:『成功する公共施設マネジメント』

・行政サービスの性質別受益者負担割合(これもすごくわかりやすい!)

出典:『成功する公共施設マネジメント』


・住民生活に密着した様々な分野での行政サービスを展開するうえで、それぞれの担当部署が分野ごとの専門的観点から必要な施策・事業を行うのであるから、責任を明確にする点で縦割りは単純に批判されることはない。批判されるのは、自分の担当分野・部署における狭い範囲での仕事に没頭し、住民生活全般への配慮に欠けた「縄張り意識」を持つことである

 ⇒ まったくの同感! 
   担当部署でやっていることは、すべて住民の幸せを叶えるための手段に過ぎない。

・施設の名称や目的にこだわっているのは、担当部署の職員だけ。住民の側からみれば、施設の利用条件が自由であれば、あえて縦割り行政という批判をする必要もなく、現実的に問題なく「公の施設」を利用している実態がある

 ⇒ その施設は何のためにあるのか。それが利用の実態とあっているか。

・学校施設、都市公園、道路・橋梁、上下水道施設などは、個別法で管理運営事項が定められているので、「公の施設」にはあたらないとされ、指定管理者制度の適用除外となっている。
 保育所などの福祉施設、病院などは個別法で施設・設備の管理運営主体が行政機関に限定されておらず、「公の施設」として指定管理者制度の適用が可能

・複合施設としての、武雄市図書館、伊万里市民図書館、武蔵のプレイス。副業機能を意識的に活用すれば利用者は拡大する

・「指定管理にすると、民間事業者は利益を生み出すために人件費を削るので、質の低下につながる」という批判。
 → 経費削減を目的に、業者選考の基準の主要項目に「指定管理料の価格」を設定しているのは自治体の側。低い人件費となる要因は自治体の姿勢にある

・収支決算報告書に「利益」が明記されている事例はほとんどない
 → 自治体が利益性の拡大を「是」とすれば、民間企業による管理運営により、利益を追求して、その一定割合を自治体に納入させる契約にして、施設維持にかかる経費に投入する税金額を減らすことも可能

公共施設マネジメントの効果的推進手法

●神奈川県秦野市
・「公共施設更新問題への取り組みを応援します」
 公共施設白書、公共施設再配置計画書を販売、視察、講演依頼
 → 「削減でもサービスは低下しない」をシンボル事業で示す

・再配置計画を説得するのに、最も困難なのは、市民よりも実は市役所職員

●香川県まんのう町
・通常の自治体における業務委託の発注は、自治体側が詳細な仕様を示し、その仕様書によって入札することがほとんど。この方式だと、仕様書に記載された業務を行うことは当然。
仕様書の過不足があっても、受注業者は仕様書以上の業務を実施しない
 → 実現しなければならないのは、施設を安全で効果的、効率的に管理運営すること
 → この目的を「性能」として発注して、詳細は専門事業者からの提案を受ける方式として実施

●流山市
・複数施設の電気工作物、浄化槽、消防用設備、自動ドアなどの保守点検を一括発注する「デザインビルド型包括施設管理業務委託」を実施

・一般競争入札にこだわり、業者の見積書をもとに、複雑で膨大な仕様書を作成して使用発注することは「安かろう、悪かろう」になるおそれ
 → 自治体はオーナーに徹し、「課題・目的・与条件」のみを明確にした性能発注(プロポーザルコンペ)とすることが有効
 → 民間企業の提案リスクを低減しつつ、参加意欲を向上させるプロポーザルコンペの仕組みづくりが必要(サウンディング調査など)

●山形県西川町の学校図書館
・公立図書館を学校に併設したイメージ
・地元木材を活用した校舎、学校農園など自然と触れ合える教育、将来的な小中一貫教育、図書室や体育館は地域社会との開放を前提にした管理区分の設定
・地域住民の利用を前提とすることで、常駐スタッフを学校司書として確保
・日常的に地域住民が出入りすることで、「特定多数の目」の存在が学校のセキュリティを高める
・学校敷地内の広大な駐車スペース
・地域のシンボルに

・アメリカの主要大学図書館における、図書からコンピュータ+ラウンジの「ラーニング・コモンズ」への変化

・図書館の持つすべての機能を実現するために訪れる市民はいない。
 部分的な機能は、庁舎、学校、公民館、博物館などでも実現できる。
 図書に囲まれた空間はインテリアとして好まれるので、公共空間の一角に書庫を設置するスペースをつくった分散型の可能性も

・武雄市図書館は「消費的サービス」、伊万里市図書館の「価値創造支援サービス」
 武雄市・・・市民が求める質の高いサービスを提供
 伊万里市・・・市民が主体的にコミュニティ活動を展開する拠点
        → 市民が自発的に利用できるスペースが多く用意されている
        → フレンズいまりが蔵書管理やレファレンスなどの基本業務以外にもさまざまな活動
        → 自分たちの図書館であり、地域の交流拠点として活用する意識
        → 利用登録市民70%以上(武雄市は24%)

・公共施設におけるサービス展開は、価値創造支援型が基本となることで税金投入の意義を説明できるが、多くの市民活動に支えられることが前提。その基盤には、行政にも市民にも多くの創意工夫と努力が必要。受益が限定されるサービスに継続的に税金を投入し続けることには、相当の説明責任が問われる

●掛川市
・「マイナス指定管理料」
  自治体は指定管理者に指定管理料を払わずに、行政が収益金の一部を納付金として受け取る仕組み
・「キャピタルコスト」がゼロであれば、公共施設であっても、最大限に有効活用して、「市民財産」として公共目的を達成しつつ、さらに収益を生み出す

●大阪城公園PMO事業
・指定管理者による管理運営
・指定管理料はゼロ、指定管理者が年間2億3000万円の固定納付金を大阪市に支払う
・大阪城の運営からの収益の一定割合を「変動納付金」として大阪市に納付(事業者からの提案)

・民間事業者の活用は、費用を削減する目的が第一になっている自治体が多い。そもそも民間では利益が見込めないために、投資を行わない「公共施設」だから、市民の需要に応える公共目的なので、税金の投入は当然であり、できるだけコストは抑えるにしても、採算性はもとから考えないという発想

●学校施設を避難所に
・基礎自治体が設置している施設で、雨風を防ぐことができ、高床で、当面の利用人数を制限せずに開放できる空間は、学校体育館以外には用意できていない
・避難所として最も必要になるのは、洋式トイレ、シャワー、更衣室

包括保守点検委託の実践とマニュアル

・包括施設管理業務委託では、対象施設・設備を「法令を遵守したうえで適正な状態で管理すること」が性能上の要求事項

・包括施設管理業務委託自体は小さな事務事業の改善でしかないかもしれないが、この実践は、その後に求められる「まち全体のファシリティを経営してまちづくりに活用していく」ための確かな第一歩になりうる要素を多く秘めている