1 はじめに
予測困難な時代、あるいは正解のない時代といわれる現代において、教育や学びのあり方が根本から問い直されています。
これまでの学びは、個人としての「第一の学び」や学校や職場における「第二の学び」が重視されてきました。
この連載においては、そのどちらでもない場所、地域や社会、コミュニティといった第3の場における学びとして「第3の学び(サード・ラーニング)」の重要性について探究しています。
その中で連載の第7回では、正解のない問いに立ち向かう力を育むための手法として定着しつつあるPBL(Problem based Learning、Project based Learning)、プロジェクトによる学びを取り上げてきました。
そして、PBLの特徴として、実際にやってみること(活動)と、そこから何を学んだか(学び)が一体となっていることや、「やってみること(doing)」と「活動を振り返って学ぶこと(learning)」を往復させることが重要ということを述べてきました。
今回はプロジェクトによる学びについて、実際の事例を取り上げながら、もう少し深掘りしていきたいと思います。
結論からいうと、プロジェクトによる学びには、大きく分けて2つのことが挙げられると考えています。
①活動自体による成果
②生徒自身の内面や行動の変化
です。
第6回でもご紹介した、高校生が企画して地域の方々と連携して開催したイベント「弥生祭」の事例をもとに、以下、詳しく解説していきます。
2 プロジェクトによる学び①
弥生祭とは、地元の高校生が企画・運営したイベントで、会場である地元の商店街との連携のもとでイベントを開催するというプロジェクトでした。
このプロジェクトについて、先ほどの2つの学びのうち、まずは一つ目の活動自体による成果について考えて見ることにします。
まず挙げられるのは、イベント開催に関するスキルです。
たとえばイベントの企画だったり、段取り、広報の仕方、運営の方法などです。
また、細かい点ですが、関係者との調整を進める上での連絡の取り方、日程調整、言葉遣い、態度などについて注意すべきことも学ぶことができます。
そして学びとは少し異なるかもしれませんが、イベントを実施したことで、地域ににぎわいが生まれたり、地域の方々や出店団体との関係が構築されたりするようなことも成果といっていいかと思います。
こちらはいわば知識・技能の活用としての学びであり、すぐに目に見える成果として比較的、分かりやすいのではないかと思います。
3 プロジェクトによる学び①
しかし、実際にプロジェクトを運営する際、私たちはしばしば一つの落とし穴に陥ります。
それは、プロジェクトという活動そのものの成否や、目に見える成果物の完成度にのみ、意識が奪われてしまうことです。
弥生祭についていえば、弥生祭というイベントを開催したことそのものや、先に挙げたイベント開催に関するスキル、地域のにぎわい、地域の方々や出店団体との関係などがそれにあたります。
もちろんそれらがすべてダメというわけではありません。
ですが、それらが注目されやすいがために、見逃されている大きなものがあるのではないかということです。
それがプロジェクトによる大きな2つの学びのうち、もう一つの生徒自身の内面や行動の変化です。
これは成し遂げたことではなく、その過程で自分がどう変わったかという側面です。
たとえば、弥生祭に関わった生徒の中には、活動を通して地域への関心が高まり、「自分たちの住んでいる場所をもっと良くしたい」という意識が芽生えたケースが見られました。
また、人との関わり方にも変化が現れます。はじめは遠慮がちだった生徒が、次第に他者と主体的に関わるようになるといった変化です。
特にこの人との関わり方の変化は、自分自身では気づきにくいという特徴があります。
実際に、以下のようなエピソードがありました。
ある生徒は当初、イベント前に開催された他校の生徒も参加する発表会で、近隣の高校生に話しかけることすら躊躇していました。
じれったくなった周りの教員に背中を押されて、ようやく重い腰を上げて声をかけにいったくらいでした。
しかし、弥生祭の実施後に近隣の大学で行われた発表の場では、初めて会う大学の教員などに対して自ら積極的に話しかける姿が見られたのです。
引率した教員も驚くほどの変化でした。
ところが、後日、そのことを本人に伝えたところ、「この活動を通して、自分が何をやったのか、正直よく分からなかった」という言葉が返ってきたのだそうです。
つまり本人にとっては、活動したという事実は残っていても、「自分がどう変わったのか」「何を学んだのか」は十分に言語化されていなかったのです。
担当教員やチームの仲間から、具体的な変化をフィードバックされたことで初めて、自分の成長に気づくことができました。
こちらはいわばプロセスを通じた自己変容であり、知識・技能の活用としての学びに比べると実感しづらく、見えにくい学びだといえるでしょう。
4 プロジェクトをやりっぱなしにしないためにできること
このことから言えるのは、プロジェクトによる2つの学びはそれぞれ、イベントの実施や成果物といった「目に見える成果」と内面や行動の変化といった「目に見えにくい成長」の2つの側面があることを示しているということです。
前者は比較的把握しやすい一方で、後者は自分一人では気づきにくいという特徴があります。
そのため、プロジェクトを実施したところでPBLが終わってしまうと、単なる活動をしただけで、そこで何を得たのかがよく分からなくなってしまうおそれがあります。
では、プロジェクトをやりっぱなしにせず、次につながる学びを得るためにはどうしたらいいのでしょうか?
その答えは、先ほどのエピソードの中にありました。
周囲からのフィードバックや、自分の経験を振り返る内省の機会と時間を意図的に設けることが重要ではないかと私は考えます。
もっといえば、最初からフィードバックや内省を行うことも含めてプログラムを設計すべきだと思います。
さらにいえば、何のためのPBLか、何のためのプロジェクトなのかといった、そもそものプログラムの目的を明確にするということが必要なのかもしれません。
5 おわりに
PBLは、活動そのものではなく、「活動・振り返り・意味づけ」までを一体として設計して初めて機能します。
プロジェクトによる学びは、単なる活動設計ではなく、「どのような学びを生み出すか」という設計の問題が大きく関わっていることが分かりました。
特に重要なのは、「目に見える成果」と「目に見えにくい自己変容」の両方を、あらかじめ見据えておくこと、何のためにプロジェクトを実施するかという目的を明らかにしておくということだと思います。
特に、後者は放っておくと取りこぼされやすい領域です。
そのため、活動後に自然と振り返りが生まれることを期待するのではなく、フィードバックや内省の機会を意図的にプログラムの中に組み込む視点が求められます。
また、「何のためにこのプロジェクトを行うのか」という目的を明確にしつつ、どのような変化を促したいのかを考えておくことが重要ではないかと思います。
成果だけでなく、その過程でどのような変化を引き出せたかに注目する。
PBLの本質について、改めて考えることができました。
