ローカルベンチャーが熱い!

ローカルベンチャーとは、著者の牧大介さんが提唱した言葉で、地域の宝物を自分なりの視点で見つけ、地域でビジネスを起こす。そして起業家たちが増え、お互いに関連を持ちながら、その地域の経済を成り立たせていく事業のことです。

その根底にある思いはただ一つ、

「地域にはビジネスの可能性があふれている」

ということです。

本書には、「地域にはプレーヤーが足りない」という自らの問題意識から、岡山県西粟倉村に飛び込んだ牧さんの起業ストーリーと、「西粟倉・森の学校」とエーゼロという2つのローカルベンチャーの事業エッセンスが詰め込まれています。

地域に眠る資源を活かしながら、さまざまなチャレンジを通して地域での経済循環を生み出していくストーリーを読み進めるうちに、胸が熱くなります。
そして、「自分も地域で何か起こしたい!」と思わずワクワクさせてくれる本です。

ここでは、

①地域の「自然資本」を活用して、地域経済の循環をつくる
②ローカルベンチャーが目指すもの

という2点に注目して、本書からの学びを記録していきます。(通称「まとメモ」)

地域の「自然資本」を活用して、地域経済の循環をつくる

「自然資本」という言葉は一見、奇妙に感じるかもしれません。

牧さんは、

森林、山、土壌、海、川、大気、生き物などを「自然資本」ととらえ、自然資本が持つ本来の力を引き出し、価値を創造する

こと、そしてそのためには、

自然資本の中で循環を生み出し、その価値が高まっていく仕組みづくり

が重要であると述べています。

その仕組みづくりとして、エーゼロでは、林業と水産業、農業をつなげる「うなぎの養殖」に取り組んでいます。
これは、「西粟倉・森の学校」で捨てられる木くずを燃料にしてうなぎを育て、うなぎの養殖過程で出るフンや排水を肥料として畑に循環させるというものです。

こうした産業間の循環ができれば地域全体の循環が可能になり、地域での循環が大きくなっていけば、地域経済の自立度も高まっていくといいます。
逆にいえば、こうした地域内での循環が小さいと、地域経済の自立度は低くなるということです。
これが、牧さんが「地域には資本主義が足りない」という意味でしょう。

地域経済をよくするのは、地域全体の売り上げと、地域全体で発生するコスト(外に出ていくお金)の2つを考えればよい。地域から出ていくお金を減らして、生まれる価値の量を上げるだけ

つまり、地域で必要なものを地域で生み出して、付加価値を高めていければいいということですね。
余剰分を地域の外に売って外貨を得たりすることもできます。
シンプル!

ただし、これはどんな地域でもできるというわけでもないようです。
牧さんは、

地域経済が発酵しやすい「地域のスケール」(規模感)がある

といいます。
地域(経済)が大きくなるほど、プレーヤーが多くなって、競合が増えたり、他地域からの参入が増えるからですね。
とすると、東京のような大都市には不向きで、逆に田舎の方が都合がいいわけです。

それでは、日本の田舎で、経済の自立度の高い地域が増えていったら、どういうことが起きるでしょうか?

もちろん一つには地域の持続可能性が高まるということがあるかと思います。
これに加えて、牧さんは「人が生きていくのを支える基盤になる」ということを述べています。

「人が生きていくのを支える基盤になる」というのはどういうことか?
経済的な側面ということもあると思いますが、それだけではありません。

それについては、後述の「ローカルベンチャーが目指すもの」で書くこととします。

ローカルベンチャーが目指すもの

ローカルベンチャーが目指すものは何か?

一言でいえば、私は「地域で人が生きていくのを支える基盤」をつくることだと思います。
これには3つの意味が含まれると考えています。

一つ目は、生計を立てられるだけの収入を得ること
二つ目は、地域経済の循環をつくること
三つ目は、自分個人としての生きがいをつくること

生計を立てられるだけの収入を得る

これはシンプルにそのままの意味ですね。
牧さんの言葉でいえば、

 「お金なんてどうでもいい」ではなく、しっかり売り上げを伸ばして、生産性を高め、そこそこの給料を出せる会社を地域で増やす

ということです。
地域でのビジネスではお金のことがなおざりになりがちです。
こうした部分でも、「地域には資本主義が足りない」ということになるでしょう。

地域経済の循環をつくること

これについては、先の「地域の『自然資本』を活用して、地域経済の循環をつくる」で述べてきたとおりです。

自分個人としての生きがいをつくること

エーゼロが手掛けるローカルベンチャースクールでは、これを一番大切にしていることが次の言葉から読み取れます。

「こうすれば評価される」よりも、「自分がこうしたい!」と自分起点であることが大切・・・
口で言っていることが自分の心のピュアな欲求がつながっていないと、事業プランに核にその人がいなくなってしまう

そして、

会社の手段になることなく、その人らしくありたいという生き方を中心に置いて成立するのがローカルベンチャーの魅力

だとしています。

よく地域に入って活動しようとしている人たちが、「地域のために何かしたい」といっているのを耳にすることがあります。
でもこれって、実は自分の勝手な想いだったりするんです。
地域にはいろんな人がいるし、いろんな考えもあります。
別に何かして欲しいと思っているわけじゃなかったりもします。

そんなとき、何もしないうちから「地域のために」と気を張りすぎてしまうと、地域の人とのギャップに苦しんでしまうということも多いそうです。

そのため、ローカルベンチャースクールでは、最初から「地域のため」を考えるのではなく、まずは精一杯、自分の夢を追いかけて、「自分を幸せにするために」地域で生きる・チャレンジするということを大切にしているというのです。
基本的に地域に入っている移住者というのは、何の財産も持たずに、まったく無防備な状態で地域に入っていくことになるので、気持ちよく地域の人たちに応援してもらえる存在になるということなんですね。

そして、お世話になった人たちへの感謝の気持ちが心の底から湧き上がってきたら、そのときにやっと「地域のために」頑張ればいいといいます。

この考え方は素晴らしいと思います!

自分がワクワクするビジネスは、自分のことも、人のことも幸せにできる

この信念に満ち溢れていますね。

そして、地域にそういうローカルベンチャーが増えれば増えるほど、その組み合わせが増え、多様なものがつながり合って多様な価値が生まれる可能性が高まることとなります。
それが冒頭に引用した

「地域にはビジネスの可能性があふれている」

の本当の意味なんですね。

最後に、ローカルベンチャーが地域にもたらす「夢」を表現している素晴らしい一節を引用して、本文を締めくくりたいと思います。

地域には愛情=ローカルベンチャーの成長を支える大きな応援のエネルギーが眠っている・・・
ローカルベンチャーが現れたとき、地域の未来をあきらめたくないたくさんの人が応援してくれる。その人たちの愛情=エネルギーをいただきながら、成長していくのがローカルベンチャー。