「関係人口」とわたし

「関係人口」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

ざっくりいうと、関係人口とは、「そこに住んではいないけれど、その地域を何度も訪れたり応援してくれたりして、地域と多様な関わりを持つ仲間」のことです。
地域の住民である「定住人口」と、観光客として地域を訪れる「交流人口」の中間的な存在として取り扱われています。

起源についてはどうもはっきりしませんが、ソトコト編集長の指出一正さんの著書『ぼくらは地方で幸せを見つける』と、今流行のポケマルの高橋博之さんの著書『都市と地方をかきまぜる』で使われたのがはじまりのようですね。

この関係人口という概念が広く知られるきっかけなったのが、本書『関係人口をつくる』ではないかと思います。
今、地方創生がらみで、いろんな地域が盛んに「関係人口を増やしたい」ということをいっていますが、いわば関係人口ブームの火付け役となった本といえます。

かくいう私も、公務員時代にこれを読んで、行政マンとしても、まちづくりに携わるしごととしても、自らの探求テーマに関係人口を掲げるようになったのも、この本を読んだことがきっかけでした。

私は本からのまなびを重要視していますので、本サイトの「まなび」では私の探求テーマに沿った本とそこからのまなびを中心に投稿していこうと考えています。

そこで!
記念すべき第1回目の投稿として、本書について改めて深掘りしてみたいと思います!

関係人口と地域の関わり

一般的によくいわれるのは、地域にとって関係人口は、地域の課題を解決してくれる大きな可能性を持った人材であるということです。

「消滅可能性都市」で話題になった増田レポートを引き合いに出すまでもなく、地方圏の地域は数多くの課題を抱えています。
人口減少はいまや地方だけの課題ではなく、全国的にみられる現象ですが、特に地方圏では超がつくほどの高齢化や少子化による人口減が著しい地域が多くなっています。
人口減が続くと、地域経済が縮小したり、医療や教育施設が統合・閉鎖されたりと、地域そのものの維持が難しくなっていく側面が一般的にはあります。

そこで、そのような地域の課題を解決するために、「地域の外から人を呼ぼう!」というわけですね。
まちづくりには、「若者、よそ者、ばか者」が必要ということがいわれたりしますが、「ばか者」はともかく、「若者」と「よそ者」の要素を、まさに関係人口は満たしているというわけです。

おもしろいのは、関係人口と地域の関わりは、必ずしも関係人口が地域の課題を解決するという一方的な関係ではないということ。

社会や地域、環境をよりよくしていこうという意識を持つソーシャルないまの若い世代にとって、地方とは単に住むための場所、自分だけの暮らしの場所なのではない。自分も地域もよりよくなっていくために、自分が関わりたい、役に立ちたいと感じる場所

つまり、関係人口にとって地域は、「自分たちに役割を与えてくれる場所」ともいうことができます。
このことを著者は、「地域には関わりしろがある」と表現しています。

また、地方圏では、大都市圏に比べて、1人の存在の重みが大きくなるというのも欠かせない視点だと思います。

どういうことかというと、本書から受け売りですが、例えば、島根県の人口700,000人と東京都の人口13,000,000人を比べると、当然ながら東京都の人口の方が大きくなりますので、不等式は以下のようになります。

島根県 700,000 < 東京都 13,000,000

でも、これを分母として、分子に「あなた」を置いてみるとどうなるでしょう?

島根県 1/700,000 > 東京都 1/13,000,000

見事に不等号が逆転するのです!
つまり、地方においては、都市圏よりも「あなた」の存在が多くなるというわけですね。

この「関わりしろ」という視点は、地方創生だけでなく、これからのまちづくりには必要不可欠な要素ではないかと私は考えています。

関係人口が増えると人口は増えるか?

結論からいえば、「増える」でしょう。

ただ、これには注釈がつきます。
あくまで増えたのは結果論であるということです。

よく「移住者を増やすためにまずは関係人口を増やそう」というフレーズを目にしますが、これは地域にとって必ずしも望ましいとはいえないというのが私の考えです。

なぜか?

その理由はいくつかあります。

・関係人口の「数」を増やすことは、必ずしも人材の「質」の向上に直結しない
・関係人口が地域に求めるものは人それぞれであり、そもそも住みたいと思っているわけではない
・住むことを「強制」されると、気軽で多様な地域との関わりを望む関係人口は引いてしまう

移住者には補助金を交付するような自治体も増えていますが、これはかえって「お金さえくれればどこでもいい」人を引き寄せてしまうだけです。
友人関係に置き換えてみると分かりやすいかもしれません。
「お金をくれるなら友達になってあげるよ」という人と、あなたは友人になりたいでしょうか?

移住を目的として関係人口を増やすというのは、いわば、初めてあった異性に対して、「結婚を前提にして付き合ってください!」というようなものです。
あなたがいわれる側だったらどうでしょうか?

・・・イヤすぎますよね。
そもそもあんた誰よ?って感じです(笑)

なので、関係人口の持つエネルギーを最大限に活かすのであれば、「好きなようにさせる」「必要なサポートをして動きやすいようにしてあげる(人の紹介など)」などして、基本は主体性に委ねるというのが正解ではないかと思います。

そして、関係人口は、そもそもその地域のことが好きで関わっている人たちですから、のびのびと地域で仕事をしたり過ごしたりするうちに、ますます地域のことが好きになって、その延長として「ここに住んでみたい!」と思うこともあるかもしれません。
それが結果として移住者が増えることもあるという意味です。

住みたいと思ってもらうために何かをするというのは逆なんですね。

むしろその前にやるべきことは、住んでいる人たちが「住み続けたい!」と思えるように、地域を整えていくことかもしれません。
地域に住んでいる人たちが、いきいきと仕事をしたり、暮らしている姿を見たり、そういう人たちと関わったりすることで、地域に住むことを魅力に感じる関係人口も増えるのではないかと思います。

本書の次の一節が、端的にそれを表現しています。

最初から移住を目指しているというより、自分の生き方を考える中で、地域と関係を結ぶようになり、どんどん距離が縮まっていき、そして移住につながる

移住は、地域との関わり方の選択肢の一つにすぎないということを忘れてはならないでしょう。

関係人口のつくり方

関係人口に関わるあれこれをざっと見てきたところで、本書で述べられている関係人口のつくり方の5つのポイントを紹介していきます。

1.関係案内所を設ける

「関係案内所」というのも聞きなれない言葉かもしれません。
関係案内所とは、ソトコトの指出さんが提案している概念で、新たに地域の関係人口になろうとする人に対して、地域との関わり方を案内する場所です。
具体的には、おもしろいことをやっている地域の人を紹介するといったようなことが考えられます。

また、必ずしもハードとしての場所は必要なく、地域との関わり方を案内できる人そのものが関係案内所の役割を果たしていたりもします。

2.間口を広く、ゆるく

先ほど述べたように、関係人口の関わり方は多様です。
決して、移住にこだわらないということですね。
地域に関心がある人を広く受け入れること、そして気軽に出入りができるようにするということです。

出入りがゆるいということは、確かに出る人も増えるのではないかという心配があるかもしれません。
ですが、魅力的な地域というのは人を引き付けるものですから、関係が深まるにつれ、出る人は少なくなっていくでしょう。

また、当然ながら、人によって合う・合わない地域があることも考えられます。
そのような場合に、無理やり合わない人を引き留めても、地域も関係人口も不幸になるだけです。
出入りをゆるくすることで、合わない人は離脱しやすくし、共感する人だけを引き寄せられれば、結果として地域と関係人口の結束は強くなり、そこからうまれる成果も大きなものになっていくはずだと思います。

3.役割を提示する

地域での役割や関わり方、つまり「関わりしろ」を見せるということです。
関わりしろは、地域の課題とも読み替えられるかと思います。

地域で役割を持って課題解決の手伝いができるからこそ、自分ごととして手ごたえを感じられるし、地域との関わりを実感することができるということです。

4.自分ごとにする

先ほどの「役割を提示する」と矛盾するようですが、地域側は役割=関わりしろを見せても、それを強要してはいけないということです。
あくまで、その役割に取り組むかどうかは、地域に関わろうとする人自身の問題です。
その人の選択に委ねなくてはならないということですね。

5.人につなぐ(信頼のネットワーク)

これまで、「地域との関わり」といういい方をしてきましたが、関係人口が実感する最も大きな関わりは、地域の人との関わりでしょう。

最初に述べた関係人口の定義を覚えているでしょうか?

関係人口とは、「そこに住んではいないけれど、その地域を何度も訪れたり応援してくれたりして、地域と多様な関わりを持つ仲間」のことでした。

地域の人とのリアルなつながりの関係があってこそ、地域の人たちからの信頼が得ることができ、真に「仲間」として地域に受け入れられるということですね。

関係人口の可能性

さて、ここまで本書『関係人口をつくる』を深掘りしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

最後に、関係人口の持つ未来の可能性について述べ、本稿を閉じたいと思います。

関係人口の未来の可能性とは何か?

それは、人口は減ることは避けられないけれども、関係人口は増やすことができるということです。

これは、地域の関係人口をいたずらに数を増やすということでは決してありません。
日本全体で、地域にとって望ましい関係人口の総和を大きくできるということです。

なぜなら、関係人口が関わる地域は、一つに限る必要がないからです。
いくつもの地域と同時に関わり、場合によっては地域と地域を結ぶ役割を関係人口が担うことも可能です。

そうすると、人口は1億人でも、関係人口でいえば10億人にも100億人にも増やすことは理論上は可能となります。

本当の地域の消滅は、地域に関わろうとする人が減り、いなくなったとき

著者はこのように述べています。

でも、日本にある地域がそれぞれ固有性を活かして、それぞれに合う関係人口と関係を結ぶ。
そうすることでそれぞれの地域で活力が生まれるとともに、日本全体としての多様性が生まれ、その多様性が日本全体の活力になるのではないかと私は考えています。

そのような地域を実現できれば、人口減などおそれることはない。
そのように考えます。