『地方大学再生 生き残る大学の条件』

こんにちは。
まなびしごとLABの風間です。

今回の本は『地方大学再生 生き残る大学の条件』

ドストレートな本ですが、これまでの大学が辿ってきた歴史や近年の大学事情が分かって興味深いです。

特に、最近では大学の地域連携に関わることが増えているので、地域における大学の役割について確認することができました。

本書の5エッセンス

まずは本書から印象に残った5つのエッセンスを抽出します。

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地方都市に開設され、ローカルな需要に十分に応えている大学は、国公立大であろうと私大であろうと、安定的に学生を確保している。地方でも、少子化で学生募集に苦戦している大学は少なくないが、地域の需要を確実に捉えて安定経営を実現している中小規模の地方大学は、大都市圏の大学の争いからは離れた世界で成り立っている

⇒ 地域の大学にとって、地域の需要を捉えられているかが安定的な経営のカギ

若年層の間では、大都市圏を脱出して地方に向かう動きがある。「住んでみたい街」の大きな要素でもある自然や文化的環境があれば、大都市圏よりも生活費も安い地方都市は、受験生を惹きつける余地がある。地方の受験生たちも、必ずしも大都市を目指すわけではない

⇒ 大都市にある大学との差別化。地域の特性を活かす。

地方私大は高校生と保護者あるいは地域住民との距離が近い。日常的に見る学生の姿を通じて、良くも悪くも大学の姿勢は、周囲から常に観察されている。学習意欲の低い学生も集めて、漫然と運営している大学には、それなりの学生しか集まらない

⇒ 良い学生を集めることが、大学の評価につながり、より良い学生を集めることにつながる。

地域でどのような教育・研究が求められているかを把握し、ニーズに応じた教育を提供して学生たちを送り出す努力をする大学は、地域の人々に必ず評価され、学生たちが集まる

⇒ 地域に必要とされる大学、地域に愛される大学にならないと、学生が集まらない

地方都市の企業のなかには、新規採用に当たって、特定の職業高校や短大の卒業生の方が、信頼性が高いと判断するものもある。大都市圏と異なり、地方都市では地元大学へ進学した場合の投資対効果は見えやすい。地元の高校生たちに支持される学部構成、教育内容を持った大学や短大がある都市と、そのような大学が不在の都市では、高校生の進学率も変わってくるだろう。地域に大きな役割を果たす大学があるか否かによって、その都市の活力自体が左右されることになる

⇒ 魅力的な大学の存在は、まちづくりにも大きな影響を及ぼす

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総じて、地域の大学は地域との関係性こそが重視されるということでしょうか。

以前にお聞きした東京電機大学のSさんの「地域に必要とされる大学にならないと、学生が集まるわけがない」というお話とも重なります。

「地域との連携」が大学運営の一つの重要ワードになってきているんですね。

さらに「地域との連携」は、地域の大学の強みを出しやすい要素でもありますね。

その地域ならではの、大学と地域の連携を探究していきたいと思います。

まとメモ

はじめに

・地方都市に開設され、ローカルな需要に十分に応えている大学は、国公立大であろうと私大であろうと、安定的に学生を確保している。地方でも、少子化で学生募集に苦戦している大学は少なくないが、地域の需要を確実に捉えて安定経営を実現している中小規模の地方大学は、大都市圏の大学の争いからは離れた世界で成り立っている

第一章 新卒定期採用 戦前から戦後へ、そして高度経済成長へ

・私学はその後も、官学が支配的な官僚の世界へ進む脇道としての役割と共に、東京を中心とした企業へ人材を供給する教育機関として成長していった。・・・ごく一部を除いて、私学の開設は、学生を確保できる首都圏と関西圏に限られた。戦前を通して、統廃合されたものも含めて私学は30校に留まり、内20校が東京都その近隣を所在地としていた

第二章 偏差値から大学ランキング、就職ランキングまで

・偏差値とは中央値からの距離を測る物差しである。物差しを当てる対象は同一種類のものでなければならない。・・・学校で生徒たちの学習内容やその成果の評価が多様であれば、生徒を並べて単一の物差しで測ることはできないが、日本の学校教育は徹底的に標準化されているから、容易に比較できる

・高校以下の学校教育は、この何年もの間、個性尊重、新しい学力観、アクティブラーニング等など、改革のさまざまな掛け声にもかかわらず、基本は変わっていない。大学の微細は偏差値序列を頼りに進学先を探す受験生の姿も、それを指導する高校教員の姿も、雇用環境が激変しているにもかかわらず、あまり変化していない

第三章 バブル崩壊後に浮かぶ大学・沈む大学

・人口10数万人以下の地方都市に設置された私大の場合、特殊な専門分野を持ち、広く受験生を集めることができ、適当な規模であれば、経営が成り立つ程度の学生を集められる

・人口20万人以上、100万人以下の規模の地方都市に開設された私大は、基本的に地元の高校生の進学先として選ばれるのであり、地域への密着度が最優先されるべきである

第四章 地方の大学 国公立大学

・これからの公立大学のあり方として、ひとつには、地域に密着した社会・経済の発展の支援あるいは住民のための保健衛生など分野の教育・研究の拠点となる大学である。今ひとつは、特定分野の教育・研究で全国から人を集め、ユニークな人材を送り出すことを通じて地域に貢献する大学だろう

第五章 地方圏の私大

・若年層の間では、大都市圏を脱出して地方に向かう動きがある。「住んでみたい街」の大きな要素でもある自然や文化的環境があれば、大都市圏よりも生活費も安い地方都市は、受験生を惹きつける余地がある。地方の受験生たちも、必ずしも大都市を目指すわけではない

・松本大は、地域の意欲的な起業や経営者とタイアップして起業を支援するとともに、卒業生の就職先を開拓するなど、地域社会と密接に繋がっている。・・・経営者の目から見ても、在学中に多様な実習経験をしている松本大の出身者は、スムーズに仕事に入っていける人材だという。・・・地域に溶け込んだ活動から、松本大はすでに地元には欠かせない大学となっている

・地方私大は高校生と保護者あるいは地域住民との距離が近い。日常的に見る学生の姿を通じて、良くも悪くも大学の姿勢は、周囲から常に観察されている。学習意欲の低い学生も集めて、漫然と運営している大学には、それなりの学生しか集まらない

地域でどのような教育・研究が求められているかを把握し、ニーズに応じた教育を提供して学生たちを送り出す努力をする大学は、地域の人々に必ず評価され、学生たちが集まる

第六章 浮かぶ短期大学

・生き残っている短大は、確実に地域社会のニーズを掴み、良心的な教育から信頼を確保している

第九章 20年代に何が始まるか

・90年代以降に顕著となった女子の四大志向と社会・職業志向はいっそう進む。・・・女子の学力上位層を取り込むことができる大学と、できない大学との間の格差が目に付くようになる。農学や情報学などを含む理工系分野で、女子学生の比率が伸びない大学は地盤沈下が進むことになる
 ⇒ 同じことが地域の企業にもいえる。女性を取り込めるかどうかがカギ

・地方都市の企業のなかには、新規採用に当たって、特定の職業高校や短大の卒業生の方が、信頼性が高いと判断するものもある。大都市圏と異なり、地方都市では地元大学へ進学した場合の投資対効果は見えやすい。地元の高校生たちに支持される学部構成、教育内容を持った大学や短大がある都市と、そのような大学が不在の都市では、高校生の進学率も変わってくるだろう。地域に大きな役割を果たす大学があるか否かによって、その都市の活力自体が左右されることになる

・一部の地方都市では、交通インフラや商業インフラなどが一通り揃い、高齢人口が都市部よりも早くに消えていくことから、財政的余裕も生まれ、若年層が地元に残る道を選ぶ、あるいは大都市圏の若年層が地方移住する傾向も進むかもしれない。その際に、魅力的な大学があるか否かは、大きな意味を持つことになる

・地方都市の私大の場合、現状と同様に地域社会に根を張っているか否かによって、存続可能性は決まってくる。良質な教育を施された卒業生たちが地域の官庁・企業に就職するなど、地域社会の人々の目に見えるかたちで活躍する、あるいは都市に出て行って活躍する人材を送り出す、さらには国内外の大学院などに進学して活躍する、などの成果を挙げて、地域社会からの評価を得ることが求められる

・学部構成によっては大学院を開設し、地元の官庁や企業の人材のリカレント(学び直し)教育も含めて、地域で求められる高度な人材養成の役割を果たすこともありうる

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